名久井村に豊かな暮らしをしていた6人家族がいたそうです。しかし世に言う天明の大飢饉に見舞われ、父と10歳になる子供の2人のみ、生き残ったのでした。
ある寒い冬の日。父親は八戸の町へ鍋釜を持って出かけました。少しでもいいから食べられる物に変えるために。
食べるものが尽き寒さのあまり、子供は囲炉裏にかかる自在鉤の縄を噛んでいましたが、ふと目に入った自分の手の指を食いちぎってしまいました。
帰宅した父親は血を垂らし泣く我が子を見ると買って来た食べ物を与え、鎌で子の首を掻っ切り、自分も首をはねて死んでしまいます。
この話にはさらなる展開が待っていました。
この家族には隣村に嫁いだ娘がいました。ある日心配で様子を見に行くと凄惨な現場が…。
夫に相談すると、弔いをする余裕はないから火葬にしろと言われます。女は実家へ戻りましたが、ただ焼き捨てるのはもったいないと思い至ったのです…。
人の味を覚えた女は、自分の夫、子供にも手をかけ、全部を食べてしまいます。そして飢餓で倒れた人にも手をかけ、新しい墓を掘り返し、しまいには夜な夜な子供を追い求めるようになってしまいました。さすがに放っては置けず、近所の者が女を始末することにしたのです。
しかし体力の残っている者などおらず、百姓5,6人で取り掛かりますが、女は頑丈で、遂に山奥へ逃げられてしまいます。そこで今度は薪取りの者を殺すようになってしまいました。仕方なく狩人に頼み、猟犬で狩り出し、ようやく射殺したと言います。
本来ならもっと早い段階でこの女の一族は死刑にあった筈ですが、親戚に歴々の家臣があり有力な町家もあったため、名前も明かされず、村人も手をこまねいていたようです。
我々の遺伝子の中には人プリオン体に対する免疫機能が確認されているとか…。本当であれば、先祖は人を口にしたことがあるということですね。